2023年物流業界総括ー物流コラム⑭サプライチェーンサプライチェーン全体最適化を図るためのエッセンス

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2023年物流業界総括            

  船井総研ロジ株式会社
  取締役 常務執行役員
  赤峰 誠司

今年の物流業界はなんとも歯痒い1年だったと思います。

2024年の法改定1年前として、本来向かうべきロードマップへ進めなかったジレンマは、物流業界関係者の皆様が感じていることと思います。

今年特に筆者が危惧している①上がらない運賃②進まない物流DX③関心の薄いESGの3点に関して、本年の締め括りとしての考察をお伝えします。

上がらない運賃

筆者が分析した現在のマーケット運賃相場は、本来のあるべき運賃水準に対して、近距離地場輸送で20%~30%、中長距離輸送で30%~50%程度低いと感じています。

これは、運賃相場が「需給バランス」を基に成り立っているための事象です。図表1の通り、2023年の国内貨物量は、輸送キャパシティよりも下回っています。

コロナ前の2019年対比、未だ90%程度の貨物量しかない現状では、荷主優位に変わりなく顧客争奪消耗戦が繰り広げられています。

解決の糸口が見えないドライバー不足時代の中、ドライバーの労働時間規制があり、可能輸送時間や輸送機会が減少するのは目に見えています。しかし、需給バランスが逆転しない限り、運賃相場が大きく変わることは期待できません。今後、更なるドライバー減少と貨物量増大が進むことで、一気にX点(需給バランスの転換点)に到達し、運賃相場が跳ね上がることは予想されます。果たして、それが2024年なのかそれ以降なのか・・・その明確な予測をするには、もう少し時間が必要です。

                                     図表1

進まない物流DX

地政学リスクの高まりや、世界的なインフレ基調による調達購買費の上昇は、暫く続きそうです。国内における水光熱費・食料品などの生活物資・燃料費などあらゆる価格が急上昇する中、人件費とくに物流センターにおけるパート人件費は、そこまで上がっていません。

まだまだ労働集約型で対応できると思っている現場の責任者及び本部の幹部社員が少なくはないのが実情でしょう。欧米や中国では、もの凄い勢いで物流DXが進んでいます。日本においては、パート人件費だけの問題ではなく、図表2に示している通り、物流DXが進まない多くの課題が存在します。今や、人手不足は全産業共通の問題です。物流業界においては、いつまでもアナログな非標準的なオペレーション構造が続くことはありません。どこかの地点で一気にトランスフォーメーションが起こりえるのですが、それは2024年以降となりそうです。

                                   図表2

関心の薄いESG

これまた、欧米に比べて日本国内のESG意識はやや薄れている気がしてなりません。物流業界においても、【E】の大本命である“モーダルシフト”や“EV車両の導入”には、課題も多く実現可能な取り組み例は限られています。とはいえ、共同配送や在庫管理の適正化によるムダの排除=CO2削減は緩めることはできません。

2024年問題を深く追及していくと、【S】における労働人的マネジメントの改善と合致します。働き方改革の一環としてドライバーの労働時間規制が強化されますが、職場環境の改善や取引最適化などはもう待ったなしです。これまで市場原理によって荷主優位な物流業界でした。今後、必然的に清流化しようと動き出します。そのきっかけとなるのが、2024年法改定であると筆者は見ています。

【G】についても、国交省・厚労省・公正取引委員会など物流行政御三家(筆者が勝手にそう呼んでいます)が綿密に連携をして、荷主・元請け物流事業者の監視強化をし始めましたので、業界構造の大きな変化が期待されます。詳細は船井総研ロジ主催の各種セミナーなどでご確認ください。
https://www.f-logi.com/seminar/?tab=ninushi

                                           図表4

今年やり残した物流業界の課題は、来年一気に激変を迫られること間違いないと筆者は強く感じます。皆様においては、時流に取り残されることのないように、荷主でも物流事業者であっても物流業界の進化・発展に寄与して頂ければ幸いです。

2024年が物流業界における新中興期となることを祈念しております。

著者:船井総研ロジ株式会社
   取締役 常務執行役員
赤峰 誠司 氏
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