株式会社船井総研サプライチェーンコンサルティング
サプライチェーン支援部 アソシエイト
下花慶志
2026 年4月の「改正物流効率化法」の本格施行に伴い、年間9万トン以上の貨物を取り扱う特定荷主に対し、物流統括管理者(CLO:Chief Logistics Officer)の選任が法的に義務付けられました。対象となる多くの企業では、特定荷主選任に係る届出(5 月末まで)の提出を終え、一部企業では特定荷主の指定が成され、CLOの選任を終えられている企業も多いのではないでしょうか。
しかし今、多くの荷主企業が直面しているのが、「CLOを配置したものの、社内の物流体制が全く変わっていない」という実態です。選任したのはいいものの「お飾り」になってしまうのではないかという懸念を最近多くお聞きします。本稿では、法対応の初期フェーズを終えた今だからこそ見直すべき、CLOの役割と真に機能させるための「組織づくり」について解説します。
1,2026 年4月施行の改正法が突きつける「実効性」
改正物流効率化法の下で特定荷主に課せられた義務は、CLOの選任だけではありません。「中長期的な計画の作成」と「定期報告」も義務付けられており、取り組みが不十分な場合には国からの勧告・命令、さらには最大 100 万円以下の罰金が科される厳しい内容となっています。
加えて、
すなわち、行政が求めているのは「誰を責任者にしたか」という形式的な手続きではなく、「その責任者がいかに自社の物流を改善し、物流効率化に寄与したか」という実効性です。荷主の経営幹部が CLO に就任したものの、実務は相変わらず従来の物流部門や物流子会社に丸投げのままでは、計画の実行も目標の未達原因の特定も不可能です。CLOが孤立した「お飾り」の役職に陥らないためには、CLO を実務面で支え、全部署を巻き込んで改革を推進する「物流統括組織」の組成が不可欠であると言えます。
2,なぜ「CLOを中心とした組織」が必要なのか?
これまでの物流管理は、物流事業者への手配や運賃の価格交渉など、現場の「コスト管理」が主目的とされてきました。しかし、現代のCLOに求められる役割は根本的に異なります。
全社的な最適化(対内調整): 調達・生産・販売の各部門と連携し、物流部門のみでは成し得なかった領域の取り組み(物流効率化の観点から生産計画の見直し、リードタイムの見直し、発注ロットの平準化等)を主導で進めていく。
社会的な最適化(対外調整): 競合他社や異業種との共同配送の構築、物流事業者の荷待ち時間・荷役時間の削減に向けたガイドラインの遵守。
例えば、「営業部門が顧客に無理な即日納品を約束してしまう」「生産部門のスケジュール遅れを、トラックを待たせることで吸収する」といった企業内部の商慣習は、物流部門単独の声では変えられません。経営幹部であるCLOがトップダウンでメスを入れる必要がありますが、
CLO が単独で全社を巡回し、情報の吸い上げや日々のデータ管理を一任するのは限界があります。
だからこそ、CLOの戦略を具体的な戦術に落とし込み、各事業部との折衝やデータの収集・分
析を行う実働部隊が必要となります。

3,実効性の高い物流統括組織を作る「3つの要件」
では、具体的にどのような組織づくりを進めるべきでしょうか。
① 全社横断型のプロジェクトチームの組成
物流部門のメンバーだけで組織を固めるのは得策ではありません。営業、調達、製造、さらにはIT部門や法務部門からの適任者を集め、部門横断的な(クロスファンクショナルな)チームを CLO の直下に配置します。これにより、「物流改革=全社課題」というメッセージが組織全体に浸透し、部門間の利害対立をCLOの権限の下で迅速に解決できる体制が整います。
② データによる「可視化」とKPIの策定
組織が動くためには、客観的なデータが必要です。物流の実態を把握し、以下のような指標を可視化して社内で共有する仕組みを構築します。
・拠点ごとのトラックの「荷待ち・荷役時間」
・積載率や実車率の推移
・納品リードタイムと、それに伴う追加コスト・CO2排出量
・適正在庫設定と不動在庫処分規程
③ 適切な権限と予算の付与
どんなに優秀な組織でも、権限と予算がなければ絵に描いた餅に終わります。物流課題の解決には、「物流システムへのIT投資」や「既存の顧客に対する取引条件の変更(リードタイムの延長要請など)」が伴います。CLOと物流統括組織が既存の事業部の枠を超えて介入し、意思決定できる強い権限を与えることが経営トップの最大の役割です。
また、これらの投資判断とその判断要素となる効果検証(エビデンス収集)が物流統括組織の役割と言えます。
④ 物流は「コストセンター」から「戦略的優位性」へ
2026 年の義務化を単なる「法的なペナルティ回避のためのコンプライアンス対応」と捉えるか、「自社のサプライチェーンを強靭化するチャンス」と捉えるかで、企業の未来は大きく分かれます。
物流インフラの崩壊は、商品が運べず売上機会を逸失する「経営の危機」に直結します。逆に言えば、他社に先駆けて CLO を中心とした強固な物流統括組織を作り上げ、物流事業者から「選ばれる荷主」となることは、今後のビジネスにおける最大の競争優位性となり得ます。
弊社が主催する「荷主物流責任者向け研究会ロジスティクス・リーダーシップ・ソサエティ(通称 LLS)」では、CLO を中心とした組織づくりが確立している先行事例や物流改善、SCMにおける先進的な企業、反対にこれから改善の取り組みをスタートさせる企業など、様々な企業様がご参加されております。
時流が読みにくい中で、手始めにLLSへの参加を通して他社の動向を探ってみてはいかがでしょうか。
ご興味のある方はまずお試し参加のお申込みをぜひご検討ください。

サプライチェーン支援部 アソシエイト
下花 慶志 氏
