第1回 ソータブルとノンソータブル<アマゾンジャパンの物流のどこが凄いのか>―【連載寄稿】湯浅コンサルティングの「物流はおもしろい!」

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株式会社湯浅コンサルティング
コンサルタント
内田 明美子 氏

はじめに

 アマゾンジャパンの物流といえば、テレビやweb上で紹介される広大な物流センターの様子や、ロボットが動き回る動画を思い浮かべる方も多いことでしょう。日本のBtoC市場をけん引する存在であり、物流においても先進的な取り組みで知られるアマゾンジャパンですが、その物流の量や考え方を知りたいと思うと、意外と情報は限られています。

 例えば、アマゾンジャパンの売上高や宅配個数は非公表です。日本経済新聞が毎年行っている「小売業調査」のランキングには「アマゾンジャパンを除く」という注がついていますし、宅配個数も「2021年度は7億個強となる見通し※1」のような推定値があるのみで、おそらく半数以上が国の統計には入らないといわれています。国の宅配便の統計は大手特別積み合わせ事業者22社の取り扱い実績の集計で、上位5社(ヤマト運輸、佐川急便、日本郵便、福山通運、西濃運輸)で99.8%を占めるものですが、アマゾンジャパンはこの5社には含まれない中堅宅配事業者に多く委託しているうえ、2018年から本格的に自社物流による配達網の構築に取り組んできたためです。国の統計の宅配便個数は2022年度に50億個に達したのち、横ばいで推移していますが、これはアマゾンジャパンの増分を統計がとらえきれていないからだという指摘もあるくらいです。

 このようにとらえ難い面がある一方で、アマゾンジャパンの物流の拠点配置や各拠点の内容、納品と配送のルール等については、実は、web上にアマゾンジャパン自身が公表している詳細な情報があります。これらは物流センターに納品するベンダーや運送事業者のための情報、あるいは、配送を担当する運送事業者や個人事業主、ギグワーカーのための情報です。また、アマゾンジャパンの公式YouTubeチャンネルでは会社の理念や取り組みを紹介する571本(2025年5月現在)の動画を観ることができ、公開オンラインセミナーのAmazon Academyの中で、昨年、社長のジャスパー・チャン氏が物流について以下の情報をプレゼンテーションしています※2。

アマゾンジャパンは物流と配送網の構築のために、ここ数年、毎年数千億円以上の投資をしている

2024年はこれに加えて、ラストマイルの拡充のために250億円以上の追加投資を実施

これをもって、日本全国47都道府県のすべてにおいて、700万点以上の商品を翌日配送できる体制を構築した

 この連載ではこうした公開情報をベースとし、報道記事や米国アマゾンの物流に係る記事・論文等を参考にしながら、一部推測も交えて、物流コンサルタントである筆者がアマゾンの物流の「凄さ」を読み解いていきます。

※1 「『隠れ宅配』誰が運ぶ Amazonの荷物、半数が統計外」日本経済新聞2021/12/22
※2 第10回 Amazon Academy「持続可能なラストワンマイル物流に向けての共創」2024/8/7  https://youtu.be/wMz5tHoQFNk

 アマゾンジャパンの在庫拠点は商品サイズで区分されている

 アマゾンジャパンの在庫拠点の一覧は、下記の「納品先サイト/取扱い商材一覧」ページで最新情報をみることができます。これは商品を納品するベンダー、および実際の納品業務を担当する運送事業者のための情報です。

 一覧表では上方に自社運営の拠点、次いで外部倉庫に委託している拠点が並び、2025年5月現在で合計80か所の在庫拠点が記載されています。自社運営も委託も在庫拠点には違いなく、フルフィルメントセンター(FC)と総称される場合もありますが、アマゾンジャパン社内では拠点コードの頭にNRT(成田)、UJF(広島)、QCB(千葉)のような空港コードを付けている自社運営拠点をFCと呼び、それ以外の委託拠点はEF(External Fulfillment)と呼ばれます。一覧表上から29番目の「QCB5 相模湖センター」までが自社運営FC、その下の「TPB1 ロジクロス座間小松原」以降は外部委託のEFです。コードをクリックして「基本情報」をみると、右上にTPB1は「安全輸送株式会社」、TPB2は「日本ロジテム株式会社」のように委託先の社名が書かれています。

 近年の流れとしては、自社運営のFCが新設拡充され、EFは集約統合される方向です。

アマゾンジャパンの在庫拠点(2025年5月現在)

取扱商材FC: Fulfillment Center (自社運営在庫センター)EF: External Fulfillment (委託倉庫)
ソータブル小型・標準品
 
20 (埼玉5、神奈川5、東京1、千葉3、京都1、岐阜1、大阪2、兵庫1、佐賀1)1 (宮城)
ノンソータブル大型品3 (埼玉、千葉、大阪)26 (北海道1、宮城1、埼玉5、神奈川4、東京3、千葉4、愛知2、京都1、兵庫2、広島1、福岡2)
オーバーサイズ特大品7 (神奈川2、東京1、千葉1、愛知1、大阪1、兵庫1)
ファッションアパレル品など4(埼玉3、大阪)
フレッシュ食品2 (千葉、神奈川)
医薬品4 (千葉2、東京1、大阪1)
冷凍品2 (神奈川1、大阪1)
制限品危険品、ワイン、夏季制限品など11 (埼玉3、神奈川2、東京1、千葉2、茨城1、大阪1、兵庫1)
計 29か所計 51か所
                                         ※(株)湯浅コンサルティングの提供資料を抜粋

 80か所の拠点を「取扱商材」という列に着目して整理したのが上の表です。「取扱商材」列にはまず、「ソータブル」「ノンソータブル」という表記があります。ソータブルは「ソーターで機械仕分けできる」の意で、この区分のベースとなるのは商品の梱包後のサイズです。サイズ区分は場面や商品によって何通りかある様子ですが、以下の区分は「配送・経路指定要件」として示されているものです。「小型・標準」に相当すればソータブル、これを越えるサイズのものはノンソータブルとなります。ノンソータブルの中で特に大きいものは「オーバーサイズ」と区分されます。

アマゾンジャパンの在庫商品サイズ区分(梱包済み商品の最大重量と寸法)

商品サイズ区分重量最長辺中間辺最短辺寸法
小型/標準9kg45cm35cm20cm100cm
大型40kg95cm70cm51cm216cm
特殊大型50kg該当なし該当なし該当なし260cm
※上記資料のリンク先: https://sellercentral.amazon.co.jp/help/hub/reference/external/G200141510?locale=ja-JP

 「サイズ別物流」は合理的な仕組み

 サイズ区分に注目して拠点一覧をみると、アマゾンジャパンは標準型の「ソータブル」拠点から自前化をすすめ、ノンソータブル、オーバーサイズについてはまだ委託倉庫を多く残していることがわかります。また、サイズとは別に「ファッション」「フレッシュ(ネットスーパー事業の物流センター)」の表記もあります。これらの分野は別扱いとして切り離して、自前の専用拠点を設けているわけです。さらに、医薬品、冷凍品、危険物やワインなどの「制限品」も切り分けられ、これらには委託倉庫を使っています。

 巨大な総合卸小売事業者であるアマゾンジャパンですが、物流のしくみは、いわば、業種別に構築されているわけです。その中でも特に、ファッション・フレッシュ・医薬を除く一般品が「サイズ別物流」になっているという点は、とてもユニークだと思います。

 「サイズ別」は物流拠点運営上、きわめて合理的な区分といえます。取扱品のサイズが規定されていれば物流センター庫内のレイアウトや什器、荷役方法等を定型化しやすく、保管についても保管効率を求めるなら「サイズ別保管」が最も有効です。自動化機器も導入しやすくなります。

 一方で、納品ベンダーにとっては、同じアマゾンジャパンへの納品でも、サイズによって別々の物流センターに納品することになります。例えば同じ商品でも1個パックはソータブル、4個パックだとノンソータブルへの納品を求められるということにもなるわけです。

 「エリアフリー」のアマゾンジャパンの物流

 実は納品ベンダーにおいて、複数の物流センターに納品するということは、サイズ区分だけでなく地域区分において、通常的に起こっていることです。例えば関東のベンターでも最寄りの物流センターだけに納品するのではなく、関西や九州のセンターへの納品も指定されるのです。これはアマゾンジャパンにおいて在庫拠点は配送エリアを分担する「地域別」の配置ではなく、基本的には各拠点から全国どこにでも配送する「エリアフリー」の配置になっているためです。

 もちろん出荷の際には、複数の拠点に在庫がある場合にはなるべく配送先に近い物流センターから出荷されていることは言うまでもありません。アマゾンジャパンのシステムでは、注文者が注文をした際に、納期を守れる範囲で最も出荷配送コストの安い場所にある在庫が引き当てられます。この仕組みについては後の回で詳しく説明しますが、基本的に、各拠点に「担当エリア」という考え方はないのです。

 このことは、在庫拠点の所在地の分布を見ても明らかです。アマゾンジャパンの在庫拠点は人口の多い場所に集中しており、全80拠点の過半数の46拠点が埼玉、神奈川、千葉の3県に、東京まで含めた首都圏に53拠点あります。首都圏以外では大阪、兵庫、愛知と続き、関東以北の拠点は仙台に2か所、北海道にノンソータブルの拠点が一か所あるのみです。自前拠点のFCに限るならば、実に20/29が埼玉、神奈川、千葉に集中し、埼玉以北には1か所もありません。

 ここまで極端な集中は日本企業では考えにくく、外資系企業ならではの縮尺でとらえているという面もあるかもしれません。それでも、アマゾンジャパンのシステムがはじき出した「日本全国の家庭に供給するうえでの合理的な在庫拠点配置のありかた」は、注目に値すると思います。

アマゾンジャパンの在庫拠点所在地都道府県別分布

FCEF総計
埼玉9817
神奈川6915
千葉5914
大阪448
東京167
兵庫145
愛知33
京都112
佐賀11
宮城22
福岡22
岐阜11
茨城11
北海道11
広島11
総計295180
                                         ※(株)湯浅コンサルティングの提供資料を抜粋

 サイズ別・エリアフリー納品をフォローする「AIS(Amazon Inbound Service)」

 サイズ別かつエリアフリーの在庫配置は、納品ベンダーには複数拠点への納品という負担がかかることに話を戻します。この負担を軽減するために、アマゾンジャパンは2020年頃から順次、AIS(Amazon Inbound Service)というサービスを導入しています。

 納品ベンダーへの注文は通常、在庫FCもしくはEFに直接納品するように指定されます。AISはこれに代えて、1か所のAIS TC(Transfer Center:転送施設)に一括納品すれば、その後の配分はAmazonが有償で代行するというサービスです。AIS TCは現在、神奈川3、千葉3、大阪1、兵庫1の6か所、配置されています。

 AISの狙いは納品ベンダーにとって納品トラック輸送の効率化、分割納品に伴う納品予約や仕分作業負荷の軽減ができるとともに、各在庫拠点でも荷受け時の作業軽減、納品トラック待機時間の削減につながります。つまり、深刻なトラック輸送力不足が懸念される、いわゆる2024年問題に対応する取り組みともいえるわけです。

 アマゾンジャパン物流のファーストマイル、ミドルマイル、ラストマイル

 連載第一回の最後に、アマゾンジャパンの物流の全体フローを、改めて整理しておきましょう。

 アマゾンジャパンの物流は在庫拠点(FC、EF)を要として、ここに商品が届くまでの調達物流を「ファーストマイル」、在庫拠点から配送のための拠点(DS、SC)までの社内物流を「ミドルマイル」、配送拠点から顧客までの宅配部分を「ラストマイル」と呼んでいます。ミドルマイルとラストマイルは基本的に、顧客からの注文を受けたあとの物流です。

アマゾンジャパン物流フローの全体像

                                   ※(株)湯浅コンサルティングの提供資料を抜粋

 一般的に、企業(荷主企業)の物流を「調達物流」「社内物流」「販売物流」のように領域区分する場合、「社内物流」は工場や調達拠点から在庫拠点までおよび在庫拠点間の在庫移動を指し、顧客から注文を受けたのちの物流はまとめて「販売物流」とされます。アマゾンジャパンの区分は販売物流を「ミドルマイル」と「ラストマイル」に2分割している点が、一般的な区分とは異なるといえます。私見ですがこの区分には、アマゾンジャパンが荷主企業であると同時に「宅配事業者」としての一面をもつということが表れていると思います。DS(Delivery Station)を核として、「DSまでの輸送」と「DS以降の配達」の仕組み構築にそれぞれに注力し、自前の宅配ネットワークとして他のネット販売事業者にも外販していくということです。

次回はアマゾンジャパンの納期確定の仕組みについて解説します。お楽しみに!

株式会社湯浅コンサルティング
コンサルタント 
 内田 明美子 氏       芝田 稔子 氏

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 この変化の先には物流の「望ましい姿」が見えています。荷主も物流事業者も、これまで経験したことのない取り組みを始めています。その意味では、この変化はピンチではなく、チャンスといえます。
 湯浅和夫、内田明美子、芝田稔子の3名が、物流システムづくり、生産コントロール、そして、ロジスティクス、企業間連携、モーダルシフト、多重下請け構造の変革、デジタル技術の進展によるDX、脱炭素をめざすGXなど、これらの変化をやさしく紐解きます。

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