株式会社船井総研サプライチェーンコンサルティング
サプライチェーン支援部 アソシエイト
下花慶志
近年、ドライバー不足や燃料費の高騰や「2024年問題」を背景に、多くの荷主企業が運送会社から運賃の値上げ要請を受けていることと思います。「またコストが上がるのか…」と頭を抱える物流担当者も多いでしょう。
しかし、ここで最もやってはいけない対応が2つあります。それは「根拠を問わずに言い値で受け入れること」、そして「予算がないからと一方的に交渉を拒否すること」です。
本コラムでは、荷主企業が物流コストの適正化を図りつつ、コンプライアンスを遵守するために必須となる「自社物流費の妥当性検証」について解説します。
「交渉の無視」は法令違反のリスクとなる
まず大前提として、運送会社からの運賃交渉に応じない姿勢や一方的に拒否することは法令違反のリスクがあります。
具体的には前回コラムで触れた「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(通称:取適法)」において、労務費や原材料費の上昇を理由とした価格協議に応じないことは明確な法令違反(協議義務違反・買いたたき)とみなされる可能性が高いです。
つまり、荷主企業は運送会社からの「運賃交渉のテーブルに必ずつく」必要があるというのが前提となります。

判断基準がなければ、ただコストが上がるだけ
しかし、いざ交渉のテーブルに着いたとしても、提示された新しい料金が「妥当な水準」なのかを判断できなければ、結果的に運送会社の言い値を受け入れ、ただ物流費が高騰するだけとなってしまいます。
このようなことを防ぐためには、運送会社と密にコミュニケーションを取り、「運賃上昇値の明確なエビデンス(根拠)」を求めることが不可欠です。「人件費が上がったので一律〇%値上げさせてほしい」といった漠然とした要求に対し、「燃料費の変動分はいくらか」「ドライバーのベースアップ分は具体的にいくら想定しているのか」といった内訳をしっかりと提示してもらい、その数値を見極める姿勢が必要です。
そもそも、今の自社の運賃は「妥当」なのか?
提示されたエビデンスを正しく評価するためには、もう一つの重要なステップがあります。それは、「原価構造とそれらが変動する外部要因の把握」「そもそも自社の『現状の運賃水準』の妥当性」を正しく把握しておくことです。
過去の長年の付き合いで決まった運賃は、現在の市場相場から大きく乖離していることが少なくありません。現状が相場より大幅に安い「買いたたき状態」であれば、ある程度の値上げは許容せざるを得ないでしょう。逆にすでに相場以上の金額を支払っている高止まり状態であれば、さらなる値上げには毅然と対応する必要があります。
これを把握するためには、自社の配送データ(距離、時間、積載量、荷役条件など)を整理し、「原価項目から紐解いて調査する」ことが最も有効です。
トラックを走らせるために必要なコストは、大きく「変動費(燃料費、修繕費など)」と「固定費(人件費、車両償却費、保険料など)」に分解できます。自社の荷物を運ぶために、トラックが何時間拘束され、何キロ走っているのか。そこに各原価要素を当てはめれば、「本来かかっているはずの適正な原価(実力値)」を算出することができます。
弊社のコンサルティングソリューションの一つであるコスト妥当性評価では、原価項目に対し市況値を求め、様々な外部要因を踏まえて今後の値上げリスクを予測します。

「払うべきは払い、抑えるべきは抑える」交渉へ
自社の「適正な物流原価」を把握し、市場相場という物差しを持つこと。それこそが、自社の物流費の妥当性を検証するということであり、運賃交渉における最大の武器となります。
また、運送会社からの値上げ要請は自社の物流体制を見直す良い機会でもあります。何年も見直してこなかった運賃や輸送スキームを見える化した上で客観評価することで、物流の最適化へ一歩前進するはずです。
データに基づいた根拠を持ち、「運送会社の健全な運営に必要なコスト(適正利益)は認めつつ、非効率による無駄なコスト増は受け入れない」という対等で建設的なパートナーシップを築いていきましょう。

サプライチェーン支援部 アソシエイト
下花 慶志 氏
