船井総研ロジ株式会社
取締役 常務執行役員
赤峰 誠司
PART 2
1. 運送取引台帳とは
物流革新政策パッケージの中で義務化される「運送取引台帳」は、悪しき慣習となっていた物流業界の多重化構造に大きなメスが入ることになります。
物流業界の不合理な取引構造となっている利用運送(庸車取引)は、荷主から支払われる運賃を庸車取引ごとに取り扱い手数料という名目で5%~10%のマージンを引いた運賃が支払われます。これが、何社も下請化されると最終実運送会社の収受運賃は元値の70%~80%になることもあり得ます。
図表1の事例では、荷主から元請け企業へ100,000円で依頼された運送が、三次となる実運送会社へは85,000円まで減額されています。実際の取引では更に下請化が深まって、60,000円~70,000円ぐらい水準まで下がっていることもあります。
この下請けの多重化を抑止する仕組みが運送取引台帳となります。
国土交通省の指導方針は、庸車利用における利用運送手数料(取り扱い手数料)は荷主が運賃とは別途負担しなくてはなりません。その他高速道路料金や付帯作業費・待機時間料金などこれまで運賃に内包されていた費用が外出しになります。圧倒的に荷主優位な取引関係に極めて鋭利なメスが入ることになります。
【図表1】
2. 集車力が元請け(3PL)の差別化戦略となる
荷主が元請け(3PL)を選ぶ評価項目の中で、“集車力”は重要な基準となります。
図表1の右側の通り、運送取引台帳による管理が厳格化されると荷主の運賃負担はこれまで100,000円だったものが120,000円となってしまいます。多重化が深まる度に10,000円の利用運送手数料を荷主が負担しなくてはなりません。荷主にとってこの取引規制は運送コストに大きく影響します。当然、自社便を多く使える元請けの評価が上がり、自社便が1台もない“ノンアセット型”の3PLはその存在自体が見直されることになります。
多重構造の下層域に位置して低運賃で苦戦していた運送事業者は大きなチャンスとなります。コンプライアンス重視の経営であれば、大手元請け事業者から声がかかるシーンが想像されます。一方でその存在が荷主にも見えなかった中抜き事業者(水屋)は必然的に市場から撤退せざるを得ないでしょう。
運送取引台帳は、日本における物流業界環境を大きく変える規制となる可能性があります。
3. ノンアセット型3PLが没落する危機
日本には、米国式のノンアセット型3PLと日本式のアセット型3PLの2種類の3PL事業者が存在しています。本来の3PL定義は米国式のノンアセット型なのですが、この「運送取引台帳」の出現により、日本においてノンアセット型は崩壊の危機を迎えます。
日本の物流取引において、オープンブック方式は馴染まない契約形態と思いますが、運送取引台帳の導入によって、基本運賃とそれ以外のオプション料金は区分されます。3PLの価値をどこに見出すのか、新たな3PL競争時代の幕開けを予感します。
【図表2】