物流改革、最後の砦は“調達物流”の具現化ーコラム⑧サプライチェーン全体最適化を図るためのエッセンス

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物流改革、最後の砦は“調達物流”の具現化

船井総研ロジ株式会社
取締役 常務執行役員
赤峰 誠司

 今回は、日系企業がなかなか成功しない“国内調達物流”について考察します。

 調達物流とは、仕入先(以下、サプライヤー)から輸送されてくる自社の購買品(原材料・部品・製品など)を、こちらから引き取りに行く行為の相称です。

 荷主企業の物流部門担当者と話をすると、販売物流や社内物流には物流改善のメスを入れる発想がある一方で、調達物流についてはどこか置き去りになっていると感じることが多々あります。自社拠点からお客様・消費者までの配送の効率化や倉庫の集約といった販売物流、自社拠点または倉庫間の無駄な社内間転送を削減する社内物流に関する物流改善は、コスト抑制の余白ありと判断され物流部門による指揮のもと取り組まれています。しかし、調達物流となると各社動きが鈍くなってしまうのが実情ではないでしょうか。そこには解決すべき問題があるのは明白です。本章では物流管理において見落としがちな調達物流に焦点を当てています。

要点①:調達物流はこれまであまり注目されてこなかった領域である。背景には日本の商習慣と荷主企業の組織 の在り方が影響しており、商物一体が色濃く残っている

要点②:確立されている調達物流の代表例はミルクラン方式とVMI方式が挙げられる。しかしどちらも特定の業界でのみ発展してきており、全業界において確立されているわけではない

要点③:調達物流管理のメリットは「全体最適が見込めること」と「仕入れ品の価格と物流費が明確化されること」である

■商物一体の商習慣と組織の在り方

 調達物流がこれまであまり問題視されてこなかった理由には、長きにわたって継続されてきた日本の商習慣に要因があると言えます。どういうことかというと、調達物流という言葉そのものを認識していたとしても、そこに物流費がかかっているという関心が極めて薄いのです。つまり、調達物流に係る物流費は原材料(または資材)の調達価格すなわち商品価格に包含されており、原材料そのものの価格とその原材料を送り届けてもらう配送費とを切り分けて考えられていないということです。言い換えれば、商物分離ができていない状況と言えます。これは原材料を供給する側が悪い、調達する側に問題がある、という事ではなく、これまでの日本社会におけるモノの売り方と買い方が影響しているのです。

 このような背景があるからと言って調達物流改革を諦めるのではなく、販売物流や社内物流と同様に現状の把握を行い、原材料の価格と原材料調達に係る物流費を明確にすべきです。明確にしたうえで原材料調達にあたって、「1回の発注に対して物流費がいくらかかっているのか」「1kgあたりの物流費がどれくらいか」などの視点から物流改善に踏み切るべきだと言えます。物流改革に踏み切るというのは、物流体制の変更や切替えを断行するだけではありません。現行の体制が効率的または合理的であるかを判断するには、まず現状を把握して他の方法と比較する必要があります。比較をすることで初めてその選択を行う俎上に載ると言えます。

■まとめ

 調達物流改革は取引先との交渉や社内の組織再編などが必要であり、明日からすぐに着手できるものではありません。しかし、一つ一つ問題点を正しい手順に沿って解消することで、改革着手の道筋を作ることができます。

 特定の業界に限られますが、調達物流を含めたサプライチェーン全体を俯瞰して物流改革を行っている事例として、ミルクラン方式とVMI方式が挙げられます。詳細は割愛しますが、どちらの方式もメリットとデメリットが存在します。各社の属する業界環境、取引先と顧客との関係性、物流業界における情勢など、様々な外部要因と内部要因を加味したうえで自社にとって最適な調達物流改革を進めることが肝要になります。

 さらに、商流および物流はグローバル化しており、調達物流は国内調達だけではなく海外調達にまで拡大しています。保税倉庫を活用した国際VMIのフローと注意点、海外調達における輸送モードの特徴、貿易条件のインコタームズ、海上輸送に関する必要費用項目、国際物流におけるリスクについても十分に理解しておく必要があります。

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  著者:船井総研ロジ株式会社
      取締役 常務執行役員
  赤峰 誠司 氏
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