ヤマトホールディングス(株)は5月21日、持続可能なサプライチェーンの構築に向け、荷主企業や物流事業者をつなぐ共同輸配送のオープンプラットフォームを提供する新会社「Sustainable Shared Transport(株)」(SST)を設立した。SSTの事業開始は2024年度中になる予定だという。
1.背景と目的
物流業界は、輸送能力の不足が懸念される「物流の2024年問題」や気候変動への対応など、深刻化する様々な課題に直面している。物流は国民生活や経済活動を支える社会的インフラとして、さらなる効率化に向け大きな変革を迫られている。しかし、業種・業界ごとにシステムや規格、商慣習などが異なるため、一部の荷主企業や物流事業者のみの取り組みでは限界がある。
ヤマトグループは、2024年2月に中期経営計画「サステナビリティ・トランスフォーメーション2030 ~1st Stage~」を策定し、持続可能な未来の実現に貢献するため、多種多様なパートナーとともに、「新たな物流」、「新たな価値」を創出することに取り組んでいる。また、2018年から内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の「スマート物流サービス」にプログラムディレクターとして参画し、サプライチェーン全体を情報でつなぐ「全体最適」の物流の実現を目指し「物流情報標準ガイドライン」※1を策定。さらに、(一社)フィジカルインターネットセンターに理事会員として参画するなど、物流業界に留まらず関係省庁や荷主企業など多様なステークホルダーと連携し、協議を行ってきた。
SSTは、こうした連携・協議を経て設立に至ったもので、企業間の垣根を超えた「共同輸配送」による物流効率化に向け、荷主企業や物流事業者など多様なステークホルダーが参画できる共同輸配送のオープンプラットフォームを提供するのが目的。同グループが宅急便で培った約160万社の法人顧客や、4,000社以上の物流事業者とのパートナーシップ、輸配送ネットワーク・オペレーション構築のノウハウを生かし、安定した輸送力の確保と環境に配慮した持続可能なサプライチェーンの構築をめざす。
※1 運送計画情報や出荷情報などに関する情報標準化を推進するための指針
2.SSTの事業概要
(1)共同輸配送のオープンプラットフォームの提供
プラットフォーム上で、荷主企業の出荷計画・荷姿・荷物量などの情報と、物流事業者の運行計画などの情報をつなぎ、需要と供給に合わせた物流のマッチングを行う。輸配送は同社グループに限らず、リソース情報を登録した物流事業者が担う。同プラットフォームの基盤システムは、SIPの「物流・商流データ基盤」を構築した富士通(株)と共同で構築を進めており、2024年冬ごろからの利用開始を予定。同業他社からの閲覧や、外部からのアクセス制限などで、安心・安全で円滑な共同輸配送を実現をめざす。
(2)持続可能な地域物流網の構築
地域の複数の物流網を集約する共同輸配送を実行する。従来、低積載・長時間労働で幹線輸送を担っていた地域の物流事業者が、効率的に複数社の域内配送(集荷)を担うことで、積載率および稼働率を向上させ、地域内での持続可能な物流を構築する。
(3)高積載で安定した輸配送サービスの提供
「標準パレットの使用」、「定時運行」、「セミトレーラーやダブル連結トラックなどの高積載車両の活用」により、高積載で安定した運行を行う。また、中継拠点を介した輸送を行うことでドライバーの負担を軽減し、稼働率向上を図る。2024年度は東京・名古屋・大阪間で1日40線便を運行予定。
【想定される効果】
・持続的で安定した輸送手段の確保:1日80線便の運行(2025年度末)
・GHG排出量の低減:削減率42.2%(2025年度末)※2
・ドライバーなどの労働環境、処遇の改善:省人化率65.1%(2025年度末)※3
※2 2025年度末1日80線便運行時の排出量を基に、改良トンキロ法にて試算
※3 2025年度末1日80線便運行時の輸送量を基に、年間運転時間を試算
<SSTの目指す姿>
3.今後について
SSTでは2024年度中に第三者割当増資を予定しており、荷主企業や物流事業者に限らず幅広いステークホルダーから出資を募ります。公益性の高いオープンプラットフォームを構築し、様々な荷主企業や物流事業者に利用いただくとともに、事業拡大を目指します。