荷主の責任と脅威
船井総研ロジ株式会社
取締役 常務執行役員
赤峰 誠司
■公正取引委員会の公表
昨年12月28日、年末最後の出勤日に驚きのニュースが飛び込んできました。
公正取引委員会は、中小企業が資源価格や原材料価格(物流業界の場合は主に軽油価格)の上昇分を適切に取引価格(運賃)に上乗せできる状況にあるかどうかなどの調査を行いました。その中で主体的に取引価格の引き上げ交渉を行っていなかったと認定された13社の企業名を公表しました。公表された13社は荷主企業8社物流企業5社でした。全てが超有名企業であり、日本を代表する物流企業も含まれています。
公表理由の詳細は明示されていませんが、中小企業庁が実施した調査によって、主に3つの理由のよるものと筆者は推測します。
①取引価格(契約運賃)の物価上昇分についての見直しがなされていない
②取引価格の改定依頼・要望について回答を文書で行っていない
③そもそも価格改定の協議に応じてくれない
■ドライバー不足問題の本質
運送業における変動費用の中で、燃料費は大きな割合となっています。
国内における軽油価格は、コロナ発生時の2020年5月は底値を付けました。しかし、その後ジワリジワリと価格は上昇し2022年3月にピークを迎え、現在も高値圏のまま推移しています。トラック購入費もここ数年は、エンジン性能強化やアルミや鋼鉄・半導体価格の上昇に連動して10%~20%程度値上がりしています。人件費においては、募集価格の上昇や定着に伴う福利厚生費・給与条件等のアップなどあらゆる経費項目が値上がりしています。
このような環境において、特に中小運送業の経営は逼迫しています。
厚生労働省の調査によると、図表1の通り、道路貨物運送業は全産業平均と比較して、総実労働時間で20.6%長く、現金給与総額は12%少ないと公表されています。
今や社会問題となりつつある“ドライバー不足”の原因のひとつがここに見て取れます。
そもそも、ドライバー職の就業理由の中で大きな割合を示しているのは「高額給料」と言われています。小型トラックから中型、大型と車種が大きくなることで給料は上がります。保有免許もグレードアップします。給料が上がる最大の理由はズバリ“稼ぎ(運賃収入)”が多くなることです。ドライバーの売上に対する給料支給率は、30%~40%(車種によって違います)。
ある程度の残業時間は合意のうえで、たくさん運んで多く稼げることがドライバー職の人気のひとつでした。それが2024年の法改正で労働時間の上限が設定されることで環境が激変します。歩合割合の多い賃金体系の企業ほどその影響は計り知れないインパクトとなります。影響は輸送時間だけでなく、輸送距離や回転数にも関係します。
【図表1】
■物流特殊指定と下請法
荷主と元請け物流事業者は、公正取引委員会の管理下におかれています。荷主は物流特殊指定による元請物流事業者との取引関係。元請物流事業者は下請法による下請物流事業者との取引関係が管理されています。
いずれも、独禁法における優先的地位乱用の恐れがないか、管理監督されています。
今後更に値上がりが予想される運賃水準ですが、どの立場であっても適切な交渉とその回答を文書で実施することが荷主・元請物流会社の果たすべき義務となります。
【図表2】